Salute!カキーン!ズブマンテが清らかな音とともに注がれ、泡がはじける音も聞こえそうに。
家族4人の乾杯シーンのシャッターをホール係のイタリア青年に頼んだ。
夢殿のような八角形、開口部が大きなガラス張りレストラン。客は我々だけ。
すでに日は落ちて、窓の外に広がるトスカーナの田園風景は見えない。
4人の笑顔がテーブルライトに照らされ、鏡のように映し出されている。
ズブマンテは喉を潤し、強行軍で疲れた身体に沁み込むように吸収されていく。
随分遠くまで来てしまったという思いと、家族でいるせいか、東京のレストランで食事してい
るのではと、錯覚に陥りそうになる。
料理修行中の娘に会いに行くイタリア・レンタカーの旅。行程は言い出した娘に任せた。
各々地方の食材を使った料理とワインを楽しむ旅。
ローマで落ち合って、2日目。シエナを観光し、山羊が散歩する田舎道を迷いながら、辿りつ
いたコルトーナに近いアグリツーリズモの宿。ランドマークになるような建物は一切無く、日本
のように華やかなサインも無い。
プールでひと泳ぎし、身体を冷まし、シャワーを浴びて、爽やかになった。
メニューは当然イタリア語。料理名が分かっても、どんな料理か分からない。娘の説明を聞き
ながら、いろいろと好き勝手なことを言い合って、それぞれが前菜、セコンド、デザートなど決
める。私はこの地方の名産キアーナ牛のステーキにした。
それに合うワインはソムリエにお任せした。
イタリアの食は群雄割拠だ。どのエリアも、自信を持って素材を作り、加工し、地元産であるこ
とを誇りにしている。農産物でもワインでも、個性豊かだ。
サービスされた赤ワインは渋みとか酸味とか、何かのアロマでは無く、旨い。味は幸福感だ。
料理を生かすのはワイン、ワインを生かすのは料理であるとも感じさせられた。